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第14回「発達障害は増えているのか?」(令和元年5月)

更新日:2019年9月19日

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保護者の方々、教育現場の先生方などから
「発達に課題を感じる子どもが最近増えている気がする。」というお声をしばしばいただきます。
 
近年、国が小中学校の教職員対象に行ったアンケート調査(文部科学省 2012年)では
「発達が気になる児童」の割合は約6.5%という結果であり、
これは通常学級に1-2名は常時気になる子がいるという実情を示しています。
(この結果について、一般には「そんなにいるのか?」と思われるようですが、
 特別支援教育に携わる教員や保護者は「思ったより少ない」と感じられるようです。)
 
また疫学研究でも発達障害の有病率は上昇しているという報告がなされており、
例えば自閉スペクトラム症については最近では約2%~4%と言われ、
20年ほど前の10倍以上の有病率になります(鷲見ら 2006年、土屋 2012年)。
 
これらの報告から、一昔前に比べ発達障害のこどもは(数としては)増加していると言えるでしょう。
 
 
では、なぜ近年発達障害児が増えたのでしょう?
これには「見かけの増加」理由と、「真の増加」理由があると思われます。
 
<見かけの増加>
医学的な話になりますが、近年、小児科学・児童精神科学の分野において
「発達障害の診断基準」が変更されました。
自閉症が代表的ですが、発達障害をスペクトラム(症状の程度に強弱のある連続体)と考え、
これまでは障害とはみなさなかったような軽症例も診断できるようになりました。
軽症例であっても生活上の困難があり、
適切に支援しなければ二次障害をきたす恐れがあるため支援対象にすべきという観点からです。
支援対象者が拡がったという意味で意義あることですが、有病率を見かけ上増加させる一因とも考えられます。
また、発達障害が一般に広く知られるようになり、
本人・家族の気づきや診療ニーズが高まったことも見かけの増加理由のひとつと言えます。
 
<真の増加>
最近の研究では発達障害は、生物学的要因(遺伝)と環境要因の両者が関係していると考えられています。
つまり遺伝的に発達障害の素質をもった子どもは一定割合存在しており、
その子が育った環境がその後の症状の強さに影響しているということです。
強い素質を持つタイプであれば環境要因に関係なく診断がつくと思いますが、
比較的弱い素質のタイプでしたら、環境の良し悪しで診断レベルか否かが左右される可能性があります。
確実な根拠は示されていないものの、
 ・昨今のメディア視聴(TV、ネット、スマホ等)の多さ
 ・睡眠の不整
 ・化学物質の暴露
 ・周囲の無理解によるストレス
などは発達障害の傾向を強める因子ではないかと研究されています。
なお、生物学的に発達障害傾向の強い子どもが近年増加しているという確実な証拠は示されていませんが、
早産児や生殖医療を受け出生した児には発達障害の割合がやや高いという報告はあります。
昔とは異なる社会背景や医療の進歩が「真の増加」につながっている可能性があります。
 
以上のように理由はさまざまですが、
私たちのまわりには独特の発達特性をもった子どもたちが少なからず存在しているということです。
彼ら彼女らは少数派として、多数派である定型発達者には分からない苦労や困難を感じています。
一方、定型発達者には思いつかないようなアイデアや、独自のやり方で社会に貢献し、
世の中を彩っている存在でもあります。
 
個人的な思いとしてですが、世の中には個性的な存在が一定割合必要と思います。
よく知られていることですが、学問やテクノロジーの進歩には個性的な存在の力が欠かせません。
 
色々な理由を挙げましたが、発達障害と呼ばれる方が増えているのはもしかすると、
シンプルに、現在の(あるいは未来の)世の中に必要とされているから、かもしれません。
発達の多様性を尊重し、お互いに支えあい学びあう社会であるよう強く願っています。

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