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西宮湯川記念賞受賞者(第31回~)

更新日:2020年3月26日

ページ番号:66911828

所属・肩書は受賞当時のものです。

第31回(2016年)日高(ひだか) 義将(よしまさ) 氏 渡邉(わたなべ) 悠樹(はるき)

贈呈式年月日

平成28年(2016年)12月3日

受賞者

日高 義将 氏(理化学研究所仁科加速器研究センター 専任研究員/写真上)
 ※「高」は正しくは「はしごだか」(環境依存文字)
渡邉 悠樹 氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 講師/写真下)

日高氏

渡邉氏

※写真の無断使用を禁じます。

受賞研究

一般化された南部・ゴールドストーンの定理の確立

受賞理由

 2008年にノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の重要な業績の一つに、南部・ゴールドストーンの定理と呼ばれる物理学の基本的な定理がある。これは、物理系の持つ対称性が外部からの擾乱なしに自発的に破れると、南部・ゴールドストーンボゾンと呼ばれる質量を持たない粒子が現れ、その破れた対称性の数と質量を持たない粒子の数が等しくなるという内容である。この定理は、相互作用の詳細によらず対称性の観点だけから物理現象を解明する道筋を与える強力な手段となっている。例えば湯川秀樹博士がその存在を予言したパイ中間子は質量がとても軽いが、その理由もこの定理から理解することができる。この南部・ゴールドストーンの定理は真空中では成り立つが、物質が存在する場合は一般には成り立たないことが知られていた。半世紀にわたり、定理を一般化する多くの試みがなされてきたが、破れた対称性の数と質量のない粒子の数の間に成り立つ普遍的な関係式を導くことはできていなかった。 
 日高氏と渡邉氏は、この永年の難問に対して同じ時期に独立に取り組み、全く異なる方法を用いて上記の関係式を導くことに成功し、一般化された南部・ゴールドストーンの定理を確立した。日高氏は「射影演算子法」を用いて、一方、渡邉氏は「有効ラグランジアン法」を用いて証明を行った。この成果は、対称性の自発的破れという重要な物理現象の学問的基礎を深めるだけでなく、物理学の広範な分野における低エネルギー現象を対称性の観点から理解する礎となるものであり、物理学全体に大きな波及効果を持つものとして高く評価される。

第32回(2017年)深谷(ふかや) 英則(ひでのり)

贈呈式年月日

平成29年(2017年)12月16日

受賞者

深谷 英則 氏(大阪大学大学院理学研究科 助教)

深谷氏

※写真の無断使用を禁じます。

受賞研究

カイラル対称性の自発的破れと質量の起源の研究

受賞理由

 素粒子物理学の標準模型では、物質を構成している陽子や中性子はクォークという素粒子3個から構成され、クォーク間の相互作用は量子色力学(QCD)で記述される。クォークはスピンという固有の回転を持ち、運動方向に対して右回りまたは左回りに回転している。もしクォークの質量が0だとすると、回転の向きは変化できない。この性質をカイラル対称性と呼ぶ。現実のクォークの質量は非常に小さく、クォーク3個の質量を足しても陽子や中性子の質量のわずか2%に過ぎない。残りの98%の質量は、南部陽一郎博士によって提唱された、カイラル対称性が相互作用の結果として破れる機構(カイラル対称性の自発的破れ)によって説明できると考えられている。この描像は、湯川秀樹博士が予言したパイ中間子の存在と性質を自然に説明するため、長年正しいと信じられてきたが、カイラル対称性の自発的破れをQCDの基礎方程式から直接示すことは極めて難しい問題であった。
 深谷氏と共同研究者は、格子ゲージ理論という数値計算手法を用い、カイラル対称性の自発的破れがQCDで起こることを世界で初めて説得力のある形で示した。そのような数値的証明は、高性能のスーパーコンピュータを用いても容易ではなかったが、深谷氏は、カイラル対称性を厳密に保つ数値計算手法と、軽いクォークを含んだ有限体積でのQCDダイナミクスに対する氏の深い洞察から得られた解析手法とを組み合わせることで、この難題を解決した。この成果は、格子ゲージ理論による研究の一つの到達点であるだけでなく、物質の質量の真の起源がQCDにおける相互作用の結果として理解できることを示した点で深い物理的意義を持っており、高く評価されるものである。

第33回(2018年) 小林 努(こばやし つとむ) 氏

贈呈式年月日

平成30年(2018年)12月8日

受賞者

小林 努 氏(立教大学理学部物理学科 准教授)

※写真の無断使用を禁じます。

受賞研究

最も一般的な単一場インフレーション宇宙論の構築

受賞理由

 宇宙初期に起こった空間の加速膨張であるインフレーションにより、宇宙の平坦性や一様性を説明すると同時に構造形成の初期条件を自然に説明するインフレーション宇宙論のパラダイムは、すでに観測的にほぼ実証されたと言える。しかしながら、インフレーションモデルの詳細に関しては未だ明らかでなく、様々なモデルの可能性が存在する。現在、宇宙背景放射の温度や偏光の分布、銀河の3次元的空間分布などの宇宙論的観測が精力的に進められており、インフレーションを起源とする重力波や、ゆらぎの高次相関などが今後観測されることで、より鮮明なインフレーションモデルの描像が得られることが待たれている。
 小林氏と共同研究者は、単一のスカラー場からなる場の方程式が時間の2階微分までで表される最も一般的な宇宙モデルを考察し、インフレーションが起こる条件を明らかにするとともに、密度揺らぎや重力波の3点相関などの観測可能量に対する一般公式を導出することに成功した。これらの一般公式により、これまで個別に議論されていた様々なインフレーションモデルを包含するようなモデル空間を連続的に取り扱うことが可能になった。さらに、上記の単一スカラー場モデルの枠組みは1974年にホルンデスキーによって発見されていたが、近年、見かけ上異なる形で再発見され、それらの間の等価性を示す証明を与えたのも小林氏らである。
 以上の業績は宇宙論的観測によってインフレーションモデルを絞り込む上での統一的な枠組みを与えるものとして高く評価されている。

第34回(2019年) 村瀬(むらせ) 孔大(こうた) 氏

贈呈式年月日

令和元年(2019年)12月7日

受賞者

村瀬 孔大 氏(ペンシルベニア州立大学物理学科 助教授)

※写真の無断使用を禁じます。

受賞研究

高エネルギーニュートリノを軸にしたマルチメッセンジャー観測に基づく宇宙粒子物理学の先駆的研究

受賞理由

 高エネルギー宇宙線は、宇宙空間を飛び交う高いエネルギーの粒子だが、起源(どこで作られるのか)と加速機構(どのように高エネルギーになるのか)は発見以来100年経った現在でも未解明のままで、物理学における大きな謎である。従来は、宇宙線と電磁波の観測結果から起源と加速機構が推測されていたが、2010年に完成した南極のIceCube実験で高エネルギーニュートリノが観測されたことで状況は一変した。宇宙線や電磁波にニュートリノも加えたマルチメッセンジャー観測が可能になり、その結果を総合的に用いて高エネルギー宇宙線の謎に迫る道が拓かれたからである。
 村瀬氏は、IceCubeの観測以前から高エネルギーニュートリノに注目し、それを軸に宇宙線と電磁波の観測情報を組み合わせて高エネルギー宇宙線の起源や加速機構に迫る先駆的な研究を行い、マルチメッセンジャー宇宙粒子物理学(astroparticle physics)と呼ぶべき理論研究を牽引してきた。その理論は、高エネルギー宇宙線の起源天体解明の土台を提供している。特に、ガンマ線背景放射とニュートリノの観測結果を組み合わせて、高エネルギーニュートリノの起源天体に対する必要条件を世界に先駆けて求めた。これはモデルの詳細に依存しない一般的な制限で、今後の観測戦略へも大きな影響を与えている。また、村瀬氏が提案した、活動銀河を含む銀河団などを起源天体とする「宇宙線貯蔵庫」タイプのモデルは、ニュートリノ、ガンマ線、高エネルギー宇宙線に対する観測結果を包括的に説明できる現段階では唯一の大統一モデルであり、世界的な評価も高い。その他にも、超新星爆発やガンマ線バーストなど高エネルギーニュートリノ源に関する研究成果の質と量で世界的に突出しており、宇宙粒子物理学の発展に多大な貢献をしている。
 
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