西宮湯川記念賞受賞者(第31回~)
更新日:2018年3月20日
ページ番号:66911828
所属・肩書は受賞当時のものです。
第31回(2016年)日高 義将 氏 渡邉 悠樹 氏
贈呈式年月日
2016(平成28)年12月3日
受賞者
日高 義将 氏(理化学研究所仁科加速器研究センター 専任研究員/写真上)
※「高」は正しくは「はしごだか」(環境依存文字)
渡邉 悠樹 氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 講師/写真下)
※写真の無断使用を禁じます。
受賞研究
一般化された南部・ゴールドストーンの定理の確立
受賞理由
2008年にノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の重要な業績の一つに、南部・ゴールドストーンの定理と呼ばれる物理学の基本的な定理がある。これは、物理系の持つ対称性が外部からの擾乱なしに自発的に破れると、南部・ゴールドストーンボゾンと呼ばれる質量を持たない粒子が現れ、その破れた対称性の数と質量を持たない粒子の数が等しくなるという内容である。この定理は、相互作用の詳細によらず対称性の観点だけから物理現象を解明する道筋を与える強力な手段となっている。例えば湯川秀樹博士がその存在を予言したパイ中間子は質量がとても軽いが、その理由もこの定理から理解することができる。この南部・ゴールドストーンの定理は真空中では成り立つが、物質が存在する場合は一般には成り立たないことが知られていた。半世紀にわたり、定理を一般化する多くの試みがなされてきたが、破れた対称性の数と質量のない粒子の数の間に成り立つ普遍的な関係式を導くことはできていなかった。
日高氏と渡邉氏は、この永年の難問に対して同じ時期に独立に取り組み、全く異なる方法を用いて上記の関係式を導くことに成功し、一般化された南部・ゴールドストーンの定理を確立した。日高氏は「射影演算子法」を用いて、一方、渡邉氏は「有効ラグランジアン法」を用いて証明を行った。この成果は、対称性の自発的破れという重要な物理現象の学問的基礎を深めるだけでなく、物理学の広範な分野における低エネルギー現象を対称性の観点から理解する礎となるものであり、物理学全体に大きな波及効果を持つものとして高く評価される。
第31回西宮湯川記念賞贈呈式リーフレット(PDF:1,643KB)
第32回(2017年)深谷 英則 氏
贈呈式年月日
2017(平成29)年12月16日
受賞者
深谷 英則 氏(大阪大学大学院理学研究科 助教)
※写真の無断使用を禁じます。
受賞研究
カイラル対称性の自発的破れと質量の起源の研究
受賞理由
素粒子物理学の標準模型では、物質を構成している陽子や中性子はクォークという素粒子3個から構成され、クォーク間の相互作用は量子色力学(QCD)で記述される。クォークはスピンという固有の回転を持ち、運動方向に対して右回りまたは左回りに回転している。もしクォークの質量が0だとすると、回転の向きは変化できない。この性質をカイラル対称性と呼ぶ。現実のクォークの質量は非常に小さく、クォーク3個の質量を足しても陽子や中性子の質量のわずか2%に過ぎない。残りの98%の質量は、南部陽一郎博士によって提唱された、カイラル対称性が相互作用の結果として破れる機構(カイラル対称性の自発的破れ)によって説明できると考えられている。この描像は、湯川秀樹博士が予言したパイ中間子の存在と性質を自然に説明するため、長年正しいと信じられてきたが、カイラル対称性の自発的破れをQCDの基礎方程式から直接示すことは極めて難しい問題であった。
深谷氏と共同研究者は、格子ゲージ理論という数値計算手法を用い、カイラル対称性の自発的破れがQCDで起こることを世界で初めて説得力のある形で示した。そのような数値的証明は、高性能のスーパーコンピュータを用いても容易ではなかったが、深谷氏は、カイラル対称性を厳密に保つ数値計算手法と、軽いクォークを含んだ有限体積でのQCDダイナミクスに対する氏の深い洞察から得られた解析手法とを組み合わせることで、この難題を解決した。この成果は、格子ゲージ理論による研究の一つの到達点であるだけでなく、物質の質量の真の起源がQCDにおける相互作用の結果として理解できることを示した点で深い物理的意義を持っており、高く評価されるものである。
第32回西宮湯川記念賞贈呈式リーフレット(PDF:3,618KB)
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