特別対談 阪神・淡路大震災から25年
震災からの復興、そして次代のまちづくりへ

写真:石井 登志郎市長と辰馬 章夫会頭

石井 登志郎 西宮市長

14代西宮市長。歴史ある文教住宅都市のまちづくりを継承しつつ、西宮の魅力を高めるため邁(まい)進中

辰馬 章夫 西宮商工会議所会頭

西宮商工会議所会頭にして辰馬本家の第15代当主。震災当時は辰馬本家酒造(株)の社長を務め、復興に尽力
平成7年(1995年)1月に発生した阪神・淡路大震災(以下、震災)によって、西宮市は壊滅的なダメージを受けました。しかし、皆さんの復興への強い思いと懸命な努力、そして全国からの温かいご支援により、魅力あるまちへと復興を遂げました。
現在、本市でも震災を経験していない人が多くなっています。震災の経験を継承し、今後の備えとして生かしていくため、そして次代のまちづくりへとつなげていくため、石井市長と西宮商工会議所の辰馬会頭による特別対談を行いました。

当時を振り返って

市長:震災から四半世紀がたち、当時を経験していない市民も増えてきています()。今後の災害に備えていくためにも、実際に体感して得た教訓などについてお話いただければと思います。まずは震災当時の状況についてお聞かせいただけますか。

)18歳以上を対象とした平成30年度市民意識調査によると、震災を経験していない市民は23.2%

写真:震災で被害を受けた酒造用具
白鹿記念酒造博物館では、震災で被害を受けた酒造
用具などを展示し、震災の悲惨さを伝えています
辰馬:25年前のことですが、ついこの間のことのように感じます。大きな音がして、最初はガス爆発かと思いました。体験したことがない大きさの揺れで、なす術もなく布団をかぶっていました。揺れがおさまって周りを見ると、家具は傾き、冷蔵庫はひっくり返り、斜めの世界が広がっていました。
外へ飛び出すと見慣れた風景は全くなく、助けを求める声があちこちから聞こえました。私は家を家族に任せ、着の身着のまま車で会社へ向かいました。木造の酒蔵は全壊で、ライフラインは、水も電気もガスも全て止まっていました。
酒造りは、ライフラインが徐々に復旧したこともあり、全壊を逃れた鉄筋蔵の設備を応急修復することによって、細々ながら1カ月後には再開することができました。
とはいえ震災前の出荷量に戻るのには時間がかかったのですが、得意先からは「待つから復旧頑張って」と励ましの言葉をいただき、涙が出るほどありがたかったです。この経験もあって、東日本大震災の時には「恩返しをしないと」という気持ちになりました。
震災で生まれた「助け合い」の意識
市長:震災の年はボランティア元年といわれた年でした。私もボランティアとして駆け付けた一人で、当時は神戸製鋼所の社員として東京におり、母親の電話で事態を知りました。震災の3日後から3週間ほど休みをもらい、水と食料をトランクに詰め込んで神戸に向かいました。景色のあまりの変わりようにびっくりしたことを覚えています。
辰馬:当社でも、宮水井戸を生活用水として市民の皆さんに提供して喜ばれました。震災で非常に多くのものが失われましたが、危機意識の中で助け合い、譲り合いの精神が生まれたと感じます。

【新旧】復興を遂げたまち

白鹿記念酒造博物館
煉瓦造りの酒造館は全壊し、現在は駐車場などになっている(浜町)
写真:白鹿記念酒造博物館の震災当時と現在の様子
阪急神戸線
阪急神戸線の高架が崩れ、線路が歩道へ落下した(若松町)
写真:阪急神戸線の震災当時と現在の様子
阪神高速道路
阪神高速道路は橋脚が崩壊した(甲子園洲鳥町)
写真:阪神高速道路の震災当時と現在の様子
市立西宮高校
一部陥没した校舎は、2年後には耐震機能を備えて新しくなった(高座町)
写真:市立西宮高校の震災当時と現在の様子

これからの災害に向けて

人と人の心のつながりを大切に
市長:昨年、今年と日本各地で豪雨災害があり、また、南海トラフ地震は今後30年以内の発生確率が70%~80%と言われています。大災害はいつ起こるか分かりませんが、震災の教訓を糧にどのような備えが必要と考えますか。
辰馬:今はマンションが多くなり、近隣のネットワークが希薄になっているように感じます。震災時には、近隣の人に倒壊を免れた私の家に泊まってもらいましたが、これは日頃からつながりがあったからできたことかと思います。親しい人であれば助け合おうという「共助」の気持ちがより生まれやすい。それをまち全体でしていかないとと思います。
市長:防災に対する考え方として、「自助・共助・公助」という言葉があります。市では、危機管理センターとして機能する第二庁舎を建設中で、備蓄を増加するなど「公助」に努めているところでありますが、おっしゃっていただいた「共助」も欠かせません。
「自助」の観点では、市民の皆さんにしっかり情報をお届けするため、SNS等でも情報発信を強めています。また、震災の教訓から開局した「さくらFM」の放送を聞ける「緊急告知ラジオ」を、多くの市民に普及できるよう努めているところです。

未来の西宮について

西宮の未来は、子供の笑顔。教育に力を
市長:明るい未来のために、次代にバトンを引き継いでいくためには、子供たちの育ちが重要です。
辰馬:そうですね。子供の笑顔、目の輝きを絶やしてはいけません。そのために幼児教育等も含めた教育環境が大切です。
市長:私が子供のころと比べると、空き地が少なくなっているように感じます。もっと走り回れる空間が欲しいですね。
辰馬:子供が安全に遊びまわれる場所を含め、子育て支援の充実は大切だと思います。
市長:西宮は文教住宅都市を宣言し、住みたいまちナンバーワンと言っていただいていますが、一方で生まれる子供の数は少しずつ減ってきており、課題と認識しています。生まれてくる子供がのびのびと過ごせるようなまちづくりをしていきたいですね。
写真:石井 登志郎市長と辰馬 章夫会頭
連携して「文教住宅都市」の質を高めていく
市長:2025年(令和7年)には西宮町から西宮市になって100年を迎えます。歴史ある文教住宅都市を継承し、市と市民が一緒になって盛り上げていくことが大切になります。
辰馬:文教住宅都市の質をさらに進化させていくためにも、住む・学ぶ・楽しむ、そして音楽とスポーツが大事だと感じますね。
市長:音楽の話ですと、西宮には県立西宮高校に県下公立高校唯一の音楽科があり、上甲子園をはじめとする中学校の吹奏楽部は全国的に名高いですからね。気付けば音楽があちこちから聞こえてくる、誰もが気軽に芸術に触れられるようなまちにしていきたいと思っています。
辰馬:歌が生まれるまちはすてきですね。
市長:桜がきれいに咲き、山がきれいだと自然に歌が生まれることもあるでしょう。西宮には歌の題材になるような恵まれた自然環境がありますが、環境という視点からはいかがでしょう。
辰馬:環境学習都市の進化は大事ですね。同じ2025年に開かれる大阪・関西万博が、SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)が達成される社会を目指していますが、これは企業の姿勢としても大事なことだと考えています。
市長:SDGsで掲げられている目標は、市政としても一つひとつ、形にできるものはしていきたいと思います。
また、小学生を中心に環境学習を進めているのですが、これを学習だけで終わらせないことが大事だと思っています。学習したことが大人を通じて市民全体に広がる仕組み作りをしていきたいですね。
辰馬:教育の中にそういったことを取り込んでいけるといいですね。
市長:教育の面では、来年からコミュニティ・スクール(地域住民が学校運営に参画できるようにする仕組み)を実施します。地域の方のさまざまな知見を今まで以上に子供たちに伝えてほしいです。
辰馬:商工会議所としても、企業市民として市に貢献していくことは役目だと思っています。
市長:物流や物資の協定など、民間企業の方から協力いただけることが増えまして、ありがたい限りです。
辰馬:市民も企業も連携していく時代ですからね。西宮には大学もたくさんありますから、知的資源もいっぱいありますね。
市長:若い学生のエネルギーや知的資源も生かせば、西宮ならではの新たな取組を始められる要素はいくらでもありますね。
今回は震災当時を振り返り、次代のまちづくりについて共にお話させていただきました。助け合いの意識と人と人とのつながり、西宮の未来である子供たちの笑顔を守ること、文教住宅都市・環境学習都市を継承して未来につなげていくことなど、これからのまちづくりに大切なことを改めて認識することができました。今後も西宮の魅力をより高めていけたらと思います。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
辰馬:ありがとうございました。

関連事業

震災記念碑公園に記帳所設置
写真:西宮震災記念碑公園の献花の様子
来年1月17日(金曜)午前5時46分~午後4時
阪神・淡路大震災により犠牲となられた方々に、ご遺族や市民の方が哀悼の気持ちをささげていただけるよう、西宮震災記念碑公園(奥畑5番)に記帳所を設置し、献花を用意します(無くなり次第終了)。
問合せは秘書課(0798・35・3432)へ。
ひょうごメモリアルウォーク
写真:ひょうごメモリアルウォークの様子
来年1月17日(金曜)午前8時に六湛寺公園を出発
緊急時の避難路・救援路を歩く「1.17 ひょうごメモリアルウォーク」を行います。ルートは午前8時に六湛寺公園を出発するなど全6コース。雨天決行。参加費無料。
申込方法等詳しくはひょうご安全の日推進県民会議(078・362・9984…県復興支援課内)へ。
写真展示・講座などの関連事業を図書館など各施設で実施
震災から25年の節目を迎えるにあたり、震災の経験や教訓を伝える事業を実施します。
詳しくは市のホームページ(阪神・淡路大震災25年事業)で確認を。
震災の復旧等を克明に記録する「西宮現代史」を200人に無償配布
ハガキに、西宮現代史希望、住所、氏名、電話番号を書き12月27日(消印有効)までに情報公開課(〒662-8567六湛寺町10-3(電話)0798・35・3798)へ。市のホームページ(『西宮現代史』(全3巻4冊))からも申込可。

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