新春対談 阪神・淡路大震災から20年 震災の経験・教訓を後世に伝え災害に備える

明けましておめでとうございます。市民の皆さんには、健やかに新年をお迎えのことと存じます。

あの阪神・淡路大震災から20年になります。大地震は一瞬にして西宮のまちを破壊し、多くの尊い人命と財産を奪いました。しかし、私たちは震災から多くのことも学びました。皆さんの復興への強い思いと取り組みにより、今ではその形跡が分からないくらい魅力的なまちへと発展しています。

現在、本市では震災を経験していない市民が増えています。今号では、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長の室﨑益輝さんをお招きし、震災から学んだ教訓の継承と、近い将来、発生が危惧されている南海トラフ巨大地震への備えについて意見交換を行いました。

今後も文教住宅都市にふさわしい政治を行い、市民の皆さんの安全はもちろん、未来に責任のもてる持続可能なまちづくりに取り組んでいきますので、ご理解とご協力をお願いいたします。

西宮市長 今村 岳司
室﨑 益輝さん 今村市長

室﨑益輝さんのプロフィール

昭和19年生まれ。ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長。
阪神・淡路大震災の復興や防災・減災についての研究など幅広く活躍。
西宮市の地域防災計画の見直しなどにも大きく貢献。京都市在住。

誰もが予想しない出来事

当時を振り返って
市長
20年前、私は学生でした。ドーンと大きな音が鳴って一瞬何が起こったか分かりませんでした。
家を出ると多くの家屋が倒れてあちこちで悲鳴が聞こえ、騒然としていた状況を今でも覚えています。
室﨑
市民の中にはトラックが家に突っ込んできたのかと思った人もいました。
私たち研究者もあんな大地震が起こるとは思っていませんでした。
市長
写真:消火活動に取り組む消防士
地震直後、倒壊した家屋の消火活動に取り組む消防士
自宅は火事になりましたが、不幸中の幸いで家族は全員無事でした。
そのような状況の中でも、社会のために懸命に任務につく自衛隊や消防士、警察官、市役所職員の姿を見て、私は政治家になりたいと思いました。
室﨑
震災は、不幸な事である一方、社会を大きく動かす力になります。
市長のように未来を担っていく人材が生まれたり、絶望の淵(ふち)から這(は)い上がる人間の営みの強さが発揮されます。
市長
辛い記憶や悲しみは消えませんが、あの悲惨なまちの状態から、ここまで復興できたのは、市民の皆さんの決して負けないという決意と頑張りがあったからだと思っています。
室﨑
西宮は震災直後の市民の助け合い活動も素晴らしかったです。
今、国内外の被災者救援や災害復興活動支援を行っているNPO法人の日本災害救援ボランティアネットワークも西宮が発祥です。
市長
災害時には、人命救助など行政の力による「公助」にも限界があります。
行政以外にこのような団体や企業が社会に貢献してくれることは大変ありがたく思います。

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共助の取り組みは防災対策の要

震災の教訓とは
室﨑
まず、誰もが自分の住んでいるところに大地震なんか来ないと思い込んでいた“油断”が大きな反省点ではないでしょうか。
私たちは、耐震補強や家具の転倒防止など事前に備えることで、被害を最小限に抑えられることを学びました。
市長
震災を受けて、市も被害想定や職員の配備体制など地域防災計画を順次見直し、公共施設の耐震化などを進めました。
市民の皆さんの間でも、自分の命は自分で守るという「自助」意識が広がり、住まいの耐震化などの取り組みが進みました。
室﨑
もう1つの教訓は、先ほど言った住民同士の助け合い「共助」の大切さを学んだことでしょう。
震災までは災害が起こったら行政がなんとかしてくれると皆が思い込んでいたと思います。
市長
昨年11月に起こった長野県北部の地震もそうでした。近隣住民の力により助かった人が多かったですね。
本市では震災以降、地域コミュニティが活性化しました。
自主防災組織の組織率は約90%までに達し、地域では訓練など自主的な防災活動に取り組んでいます。
また、企業による社会貢献意識も高まり、生活物資の提供など本市と災害時応援協定を締結した企業は72団体になります。
室﨑
まさしく震災は社会を大きく動かす力になっていますね。
自主防災組織など共助の取り組みは、防災対策の要となるものですので、しっかりと支援していきたいですね。
市長
東日本大震災では、阪神・淡路大震災の教訓は生かされたんでしょうか?
室﨑
行政レベルだと、自衛隊や警察、消防団の危機対応の初動スピードが全然違いました。
また、個人のレベルでは耐震補強や家具の転倒防止が進んでいたため、建物倒壊もある程度防ぐことができたようです。
しかし、阪神と東北では市街地であるか否かなど地域性が違うため、全部の教訓を生かせてはいません。
東日本大震災は津波による被災であったため、新たな教訓として全国で津波対策に取り組むようになりました。

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自らアクションを起こすことで意識を高める

後世への継承
市長
現在、本市では転出入などにより、西宮で震災を経験した市民は約40%まで下がっています。
自主防災組織の担い手も昔から西宮に住んでいる人が多いです。
若い人など震災を知らない人に記憶や教訓を継承していくために、また、より防災意識を高めていくために何が効果的でしょうか。
室﨑
西宮市でも取り組まれていると思いますが、防災パンフレットの配布など啓発活動や、地域でのさまざまなケースを想定した防災訓練の実施、子どもたちへの防災教育などをしっかりと進めていくしかないと思います。
地震の危険性を正しく広く、繰り返し伝えることが重要です。
市長
写真:西宮市防災マップ
西宮の南部(JR神戸線以北・以南)と
北部に分かれた西宮市防災マップ
昨年10月に避難所や地域の危険箇所などを掲載した西宮市防災マップを全面改訂し全戸に配布しました。
市民が自宅周辺の状況を一目で分かるように、地図の縮尺や文字を大きくした冊子版にしました。
室﨑
とても見やすく工夫されたマップになっていますね。
さまざまな防災情報も掲載されていて、家庭での家族会議や学校などで活用していただきたいですね。
市長
写真:避難訓練
地域で避難訓練を行う市民
ぜひそうしてもらいたいですね。
地域での防災活動についてですが、現在、自主防災組織では行政と連携した訓練を活発に行っています。
また、地域によっては、住民自らが危険な箇所や避難ルートを記入し作成した地域防災マップを基に、土砂災害など地域の状況に応じた災害を想定した避難訓練などを行ったりしています。
室﨑
自分たちでアクションを起こすことは、防災意識のさらなる向上につながるので、もっと広げていきたいですね。
市長
しかし、訓練参加者は固定化し、高齢化している現状もあります。もっと広げていくためにどんな支援が必要でしょうか。
室﨑
地域の皆さんが達成感を感じるような仕組みを作ってはどうでしょうか。
例えば、良い提案をされた地域には、市が補助金を交付するとか、西宮の特産品であるお酒をプレゼントするとか。
また、防災リーダーなど組織内の人材育成も大事ですね。
市長
なるほど。より多くの人が防災に関心を持ってもらえるよう、さまざまな方法を研究してみたいと思います。

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最悪の事態を想定した対策が重要

南海トラフ巨大地震に備える
市長
イメージ:避難誘導サイン
今後、30年以内に南海トラフ巨大地震の発生が危惧されています。
県が発表した被害想定では、本市では最悪のケースで死者が約7600人に上るとされていますが、事前に備えを行い、全員がすぐに避難すれば、死者数は99%減らせると言われています。
本市では、市民の皆さんが津波から迅速に避難できるよう、避難ビルの指定や避難誘導サインの整備を進めるほか、地域の自主防災組織と連携した津波避難訓練などを行い、住民に実体験を積み重ねてもらいたいと思っています。
防潮堤の補強や沈下対策などハード面については、早期に着実な実施を県へ要望しています。
しかし、今後の重要な課題として、高齢者や障害者など防災上何らかの配慮が必要な「災害時要援護者」への支援の取り組みがあります。
写真:災害救助訓練写真:病院内での避難訓練
さまざまなケースを想定し、災害救助訓練(左)や病院内で避難訓練(右)を実施
室﨑
高齢化が進む中、この問題は、日本全体の重要な課題となっています。
東日本大震災では、被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者が約6割を占めます。
市長
災害対策基本法の改正に伴い、本市では昨年、「災害時要援護者支援指針」を改定しました。
その中で、災害が起きたときに家族等の支援がなく、自力避難が困難な人を「避難行動要支援者」として位置付けています。
今後は要支援者の名簿を作成し、地域住民・団体、消防などと情報を共有するなど避難支援に向けた連携体制の構築を進めていきます。
地域の皆さんにも、ぜひご協力をお願いしたいと思います。
室﨑
要援護者対策は、「共助」の代表的な取り組みといえます。
実施にあたっては、事前に細かく各々の支援の役割を決めておかなければ、いざ災害が起こった時にうまくいきません。
実際に避難経路を通って確かめておくことも必要でしょう。助ける側、助けられる側で実践感覚を身に付けることが重要だと思います。
さらに南海トラフ巨大地震では、今までにない想定外なことが起こるかもしれないという警戒心も持っておくべきです。
私は、阪神・淡路大震災のときと違って、「和歌山や高知、名古屋あたりに全国からの支援が集中して、阪神間には一切の支援が来ない」という想定をしています。
市長
その場合の対策として、どんなことが考えられますか。
室﨑
西宮市内に一定期間の食糧や毛布、おむつなどの必需品を備蓄しておくこと、また普段から他府県と交流を持ち、何か起こった場合はお互い協力し合うことではないでしょうか。
市長
現在、本市では避難所での生活3日間に相当する食糧や生活用品などの備蓄を進めています。
また、兵庫県や県下市町、中核市などと災害時応援協定を締結しています。
これらの取り組みをもっと充実させていくことが必要ですね。
各家庭でも1週間程度の食糧や飲料水の備蓄をしていただきたいと思います。
室﨑
そうですね。
見落としている危険がないか、常に最悪の事態を想定して、対策を考えていくことが大事だと思います。
市長
本日はさまざまな視点からアドバイスをいただき、ありがとうございました。
室﨑先生には、2月7日の防災講演会でもお世話になりますが、今後ともご指導をお願いいたします。

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室﨑さんからのメッセージ
思い込みや油断は禁物! 正しく恐れ、知り、事前の準備を

災害は、いつ・どこで・どんなレベルのものが起こるか分かりません。
この地域には来ないだろう、自分は大丈夫だろうという思い込みは禁物です。
正しく恐れ、正しく危険性を知り、正しく事前に準備することが大事です。
そうすれば、被害は劇的に縮減させることができます。
そのためには、行政・市民・地域団体・企業など各々が防災の主体として当事者意識を持つことが大切です。
震災から20年という節目に、改めて家族や地域の皆さんでよく話し合ってほしいと思います。

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防災講演会
講師は室﨑益輝さん 2月7日(土)午前10時から
テーマ:阪神・淡路大震災に学んで、次の巨大地震に備える

阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた備えや南海トラフ巨大地震による津波に対する避難の考え方について講演してもらいます。入場無料。定員550人。
【会場】
兵庫医科大学 平成記念会館
【申込】
ハガキに講演会名、住所、氏名、電話番号を書き、1月5日~27日(必着)に地域防災啓発課(〒662―8567六湛寺町10―3(電話番号)0798・35・3092)へ。
市のホームページ(くらしの情報→防災)からも申込可。多数の場合抽選

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