第2章 本市の目指す生涯学習施策の基本的な考え方  1.目指す将来像 学び つながり ささえあうまち〜文教住宅都市 にしのみや〜  学ぶことはそれ自体が人生を豊かにするものです。また学ぶことを通じて人のつながりが生まれることは、そこに関わる多くの人の人生も豊かにすることができます。更に学ぶ人同士のつながりが、地域の人間関係をも豊かにし、そこから更なる活動を生むことで、支え合う地域づくりに広がっていけば、西宮市というまち全体の豊かさ・住みやすさをもたらすものとなります。  本市が特に取り組みたいのは、このようなまち全体の豊かさにつながる生涯学習に、市民のだれもが参加することができる環境づくりです。  現在、文化と教育の香り高く、住みやすいまちとして発展してきた本市の原点は、1960年代当時、石油コンビナート誘致を巡って、市民が主体的に学習し、熟議を重ねた結果、まちづくりの方向性を内外に示した「文教住宅都市宣言」にあります。今後も、地域課題について、市民が主体的に学び、行動することのできる市民力の醸成に努めていく必要があります。  本計画では、市民一人ひとりが年齢、性別、障害の有無などにとらわれず、これからの社会を生きる力を身につけることができ、また学んだ成果や学びを通じた人のつながりが、学校区等の単位で取り組まれる様々な地域活動に還元され、それらが更に広がって、だれもが安心して暮らすことができるまちづくりにつなげていくことを目指します。本市の恵まれた文化や自然環境を生かし、だれもが学びを通じてつながり、支え合うことのできる、持続可能な地域社会を構築することが、文教住宅都市としての西宮市の生涯学習が目指す将来像です。  2.基本視点  目指す将来像の実現に向け、本計画の全体を通じて、特に重視する考え方として、次の2つの基本視点を示します。これらは、本計画に基づく施策・事業のいずれにおいても、常に共有され、意識されるべき考え方となります。    視点1:学び・人づくり・つながりづくり・地域づくりの循環の促進  学びが人とのつながりをはぐくみ、行動する人を育てる生涯学習のサイクルを促進します。学習事業の実施のみで終わるのではなく、地域における新しい人間関係の構築や、地域の課題について知り、その解決に取り組む人や組織を育てる活動の一環として生涯学習が位置付けられるよう、戦略的な事業展開を図ります。  視点2:学びを通じた持続可能なまちづくりの推進  担い手の高齢化や若年・現役世代の参加の乏しさをはじめとして、本市のまちづくりには現在様々な課題が存在しています。生涯学習がこうした課題の解決に資するものとなり、多様な主体と連携・協働し、学び合いながら、持続可能な共生のまちづくりを目指すものとなるよう、市民性を備えた住民の社会参加を促進する取組みを推進します。    3.基本方針  基本視点の考え方に基づき、目指す将来像の実現に向けた本市の取組みについて、4つの基本方針を定めます。基本方針は、本計画が示す具体的な施策・事業の柱として、取組みの基本的な方向性を示すものです。 基本方針1:多様な学びの機会の提供  本市の生涯学習事業の一元的な管理と体系化を進め、効果的・効率的な学習事業の提供につなげます。市民の多様な学習ニーズに応える学習機会や、社会的な課題に応える学びの機会の提供を進めるとともに、大学・民間事業者等との連携を深め、市民の生涯学習が活発に行われるよう取り組みます。 基本方針2:誰もが参加できる学びの環境づくり  年齢や性別、仕事、障害の有無等にかかわらず、誰もが学習活動に参加できるための支援に取り組みます。ICTを活用した新しい学習機会の創出、生涯学習施設の有効活用と機能の充実、関連施設の複合化・ネットワーク化等を推進し、いつでも・どこでも学ぶことのできる環境づくりを目指します。 基本方針3:つながりささえあう学習の促進  学習が個人的な営みで終わるのではなく、人のつながりをはぐくむものとなるよう取り組みます。様々な分野で活躍する人材の育成に取り組み、人々の学習の成果が地域や社会に役立つものとなるよう、学習成果の還元や活用までを視野に入れた取組みの充実を図ります。 基本方針4:生涯学習を通じた地域づくり・まちづくり  市民性をはぐくむ学習機会の提供や地域づくりの拠点としての公民館機能の強化を図ります。地域の課題解決に向けた行動や意識の変容につながる学習の充実、地域の多様な主体の連携、地域づくりをまちづくりに広げる取組み等を通じて、生涯学習が地域コミュニティやまちづくりの基盤となる社会の実現を目指します。  4.これまでの本市の生涯学習施策  本市では、平成12年(2000年)に策定した「西宮市生涯学習推進計画」に基づき、「夢はぐくむ生涯学習のまちづくり」を目指して、計画の目標に向けた具体的施策を推進してきました。同計画では、本市の特長を生かした生涯学習推進の方向性として、「生涯学習の基礎づくり」「生涯学習情報提供体制の整備」「生涯学習の場の整備・充実」「生涯学習機会の充実」「学習成果を生かす方策」「推進体制の整備」を示しました。  それぞれの取組み状況については以下のようにまとめることができます。   ○「生涯学習の基礎づくり」では、子供の健全な育成にとって家庭が原点であることを基本的な視点とし、学校・地域・家庭が連携した取組みが進められた一方で、問題を抱え孤立した家庭への働きかけなど、家庭教育への支援が引き続き課題です。 ○「生涯学習情報提供体制の整備」では、市ホームページの充実や生涯学習情報コーナー、生涯学習相談窓口の設置などにより情報提供体制を整えました。インターネットやスマートフォンなどの情報機器が普及し、情報が比較的簡単に入手できるようになる一方で、インターネットを使わない人への対応も必要です。 ○「生涯学習の場の整備・充実」では、平成13年(2001年)に「アクタ西宮」に「北口図書館」や「大学交流センター」が開設されるなど生涯学習関連施設の拡充が図られるとともに、地域の人材を活用した開かれた学校づくりが進められました。一方で、公民館など老朽化した生涯学習関連施設の改修などの課題があります。 ○「生涯学習機会の充実」では、様々な講座等が公民館だけではなく、幅広い施策担当課で実施される傾向が強まり、より専門性をもった学習機会が提供されるようになりました。しかし参加者が固定化されており、情報を届けたい層の参加が得られていないなどの共通課題があります。 ○「学習成果を生かす方策」については、生涯学習を行なう環境は整いつつありますが、学んで得た知識や技術等を地域社会や地域の人々のために活用することなどについては、まだ十分だとは言えない状況です。 ○「推進体制の整備」では、生涯学習施策・芸術文化・スポーツ推進の部門を市長事務部局に移管するなどしましたが、より全庁的な連携が取れるような体制の構築にまでは至っていません。大学等の教育機関や民間事業者、ボランティア団体、NPO等の関係機関とは、これまで以上の連携と情報の収集・提供が必要です。 5.本市の生涯学習推進の課題と対応の方向  本市の生涯学習施策の現状と課題を把握するため、令和2年度(2020年度)に生涯学習をテーマとした「市政モニター調査」を実施しました。また、この調査を補完するものとして、公民館において地域住民を対象とした講座企画に携わる「公民館地域学習推進員会」を対象に、地域における生涯学習振興の現状と課題を調査した「推進員会調査」、市内の生涯学習関連施設の一部を対象として、利用や事業の状況、他施設との連携等について調査した「施設調査」、障害のある人の当事者団体を対象とした「障害者の生涯学習についてのアンケート」を実施しました。調査結果は、「第3章 施策の展開」の「現状と課題」で引用しています。 ○市政モニター調査:本市市民の中から市政モニターとして登録されている人を対象とする質問紙調査(郵送とメールによる配付・回収)。令和2年7月に生涯学習をテーマとして実施。有効回答率89.5%(有効回答者数443人)。 ○推進員会調査:市内の公民館で講座の企画・運営等に携わる公民館地域学習推進員会を対象とし、令和2年7月に自由記述形式のヒアリングシートを配付・回収する方式で実施。有効回答率100%(有効回答数24)。 ○施設調査:市内の生涯学習関連施設のうち、他施設との複合または近隣に連携対象となる施設が存在する施設を対象として、令和2年6月に自由記述形式のヒアリングシートを配付・回収する方式で実施。有効回答率100%(有効回答数46)。 ○障害者の生涯学習についてのアンケート:市内で活動する障害者団体や障害のある人を対象とした学習事業の参加者を対象として、電子メールまたは学習事業の場において調査票を配付・回収する方式で、学習のニーズや必要な支援についてのアンケート調査を実施。有効回答率100%(有効回答数30)  これらの調査結果の分析に加え、西宮市社会教育委員会議の平成30年答申及び令和2年答申においても、本市の課題について示されています。これらを集約した本市の生涯学習推進における主な課題としては、次の6点にまとめることができます。これらの課題については、第3章で示す4つの基本方針に基づく施策の方向において対応していくものとします。 (1)地域活動の担い手の高齢化・不足  本市は全国的な傾向と比較すると、人口が維持され、少子高齢化の進行が遅い自治体ですが、今後は人口減少とともに、高齢化率も大きく上昇することが見込まれています。平成30年答申においても、地域住民が集う場へ中学・高校・大学生や働く世代の積極的参加が少ないことが課題とされ、活力あるコミュニティの姿として、日常的な多世代の交流、多様な主体の連携と協働、地域の共通課題の解決というポイントが示されています。  今回実施した推進員会調査においても、推進員自身を含む地域活動の担い手の不足や後継者育成の困難さが示されています。講座参加者の固定化や幅広い地域住民の参画が得られないという問題は多くの地域からも指摘されており、こうした課題を解消し、今後のコミュニティの形成につなげるツールとして、生涯学習が果たすべき役割の重要性が増しています。 学習成果の活用までを視野に入れた学びの場の提供や、地域活動や幅広いまちづくりの分野において必要とされる人材の育成など、地域活動の担い手を育てる学習活動の充実に取り組みます。 施策の方向 ●社会貢献活動・ボランティア養成講座の実施(P.21) ●地域活動の担い手の育成・支援(P.32) ●まちづくり人材の育成と活躍の場づくり(P.33) 等 (2)地域が抱える課題や地域が持つ資源の発掘と情報発信  活力あるコミュニティを形成していくためには、地域が抱える課題を明確にすることや、多様な主体の連携につながる人、施設、文化資源等の地域の資源を発掘していくことが必要です。しかし、推進員会調査では、地域の課題や地域住民の学習ニーズを把握することに困難を感じている推進員が少なくないことが示されており、また、多様な主体と連携した取組みについても一部に積極的な取組みのある一方で、全体としては十分とは言えない状況が見受けられます。地域からは、これらの現状を改善していくための生涯学習事業のあり方や、情報発信の手法等について、行政の支援を要望する声も多くなっています。例えば、長年活動を続けていく中で、行事を実施することが目的化してしまうなど、それぞれの分野で本来の目的を意識した活動が十分できているとは言いがたい状況も生まれています。それぞれの生涯学習施設・機関が地域に根差した特色ある学習事業を、有意義に展開できるためのしくみづくりが課題となっています。 地域の課題について住民が協働して学び・検討する場づくりや、課題解決講座の運営等、地域課題の解決やそれに向けた関係団体等の連携・協働に繋がる取り組みの充実を図ります。 施策の方向 ●地域課題解決型学習の支援(P.34) ●地域での学びを支える体制づくり(P.36) ●地域団体等の連携・協力体制の充実(P.40) 等 (3)地域の生涯学習拠点施設の管理・運用のしくみの整備・改善と施設間連携の促進  令和2年答申では、生涯学習施設のあり方についても提言されており、地域の学習・交流の拠点としての公民館の重要性や、生涯学習関連施設が相互に連携し、ネットワーク化を進めていく事の必要性が指摘されています。現在、施設整備の検討において地域の拠点として複合施設化する方向性が示される場合もありますが、今後、同様の観点から生涯学習拠点施設の管理・運用のあり方を再検討する必要があります。「施設調査」や「推進員会調査」においては、施設間の連携については未だ積極的な取組みに乏しい状況となっており、管轄部局の違いによる運用上の問題も明らかになっています。地域づくりに向けた効果的な生涯学習の推進の拠点となる施設の充実や、施設間連携の促進を更に進めていくことが必要です。 生涯学習関連施設の複合化・ネットワーク化を進め、有効活用と機能の充実を図るとともに、地域づくりの拠点として、生涯学習関連施設の機能の再構築を進めます。 施策の方向 ●生涯学習関連施設の有効活用と機能の充実(P.27) ●生涯学習関連施設の複合化・ネットワーク化の推進(P.28) ●地域づくりの拠点としての公民館機能の再構築(P.36) 等 (4)市民の多様な学習ニーズに対する行政の役割の明確化  市政モニター調査では、全国的な動向と比較して、本市の市民の学習活動が非常に活発であること、中でも自宅での学習活動、民間の講座や教室・通信教育等は全国調査の2倍以上の実施率であることが示されています(P.18の図参照)。  市民の自主的な学習や民間事業者による学習機会の提供が数多く行われている中、行政が特に取り組むべき生涯学習施策の領域を明確化する必要があります。学習が個人の楽しみのみで終わるのではなく、地域において新しい人のつながりや助け合い・支え合いにつながる関係づくりを目指すものや、地域づくりやまちづくりといった社会的な活動に繋がっていくもの、または誰もが生涯学習活動に参加できるようにするための環境整備等、行政でなければ提供できない領域に着目した取組みが求められます。 市が実施する各種の学習事業の体系化と整理・統合を進め、効率的・効果的な市民への発信を進めるとともに、人づくり・つながりづくりにつながる学習の充実や、参加のための支援の充実を図ります。 施策の方向 ●学習事業の体系化と整理・統合(P.16) ●生涯学習への参加のための支援(P.24) ●つながりささえあう関係づくりをコーディネートする職員等の育成(P.31) 等 (5)ICTを活用した新しい学習活動のあり方の検討  令和2年(2020年)初頭より、世界的な感染拡大がもたらされた新型コロナウイルス感染症は、市民の生涯学習活動にも大きな影響をもたらしていることが市政モニター調査においても示されています。感染症予防と学習活動を両立させるためには、公共施設の利用における明確なガイドラインを示すとともに、ICTの活用など、新しい学習形態の導入も求められます。  学習活動にICTの活用を進めることで、これまで生涯学習事業に十分アクセスできなかった人に対しても、参加の機会を広げるきっかけとなることが期待されます。遠隔地への講演・講座の配信や、学習者の都合に合わせて視聴できる学習動画の作成、また、インターネットを介した相互交流等、生涯学習活動の更なる広がりを展望できる新しいあり方を検討していく必要があります。ICTの活用については、年齢による格差や経済状況による格差が存在することも示されており、ICT活用の学習機会や指導者の研修等、誰もが新しい生涯学習活動に参加できる取組みの充実が求められます。 講座等の実施や市民の相互交流等におけるICTの活用を、誰もが参加しやすい新しい生涯学習事業として積極的に推進するとともに、誰もがICTを利用できるための学習や環境づくりを進めます。 施策の方向 ●生涯学習情報のポータルサイトの設置(P.17) ●新しい知識・技術に関する学習の支援(P.19) ●ICTを活用した学習の推進(P.24) 等 (6)全庁的な生涯学習推進体制の構築  令和2年答申で示された新たな生涯学習推進体制づくりの方向性の実現に向け、本市では令和2年度より、社会教育行政の一部を教育委員会から市長事務部局に順次移管し再編を進めています。これは、生涯学習振興が行政の一領域にとどまり、幅広い政策分野で実施されている様々な学習や人材育成の活動との連携が十分ではなかったという反省に基づくものです。したがって、単なる部局の再編にとどまらず、生涯学習が市民生活の全ての分野に関わるものであり、かつ地域におけるコミュニティづくりの核となる事業であるという観点から、生涯学習に関わる全ての部局の組織横断的な連携や、それに基づく、より効果的な事業展開が可能となる体制を構築していくことが課題となります。 生涯学習が全ての行政分野に関わって市民協働を推進する鍵となる取り組みであることを踏まえ、行政内部の連携強化と分野横断的な取組みの促進に向けた組織再編を進めます。 施策の方向 ●生涯学習推進に向けた組織再編(P.44) ●ネットワーク型行政の推進(P.44) ●職員研修の充実(P.45) 等