表紙 ジェンダー×地域防災 災害時でも安全・安心にくらすために 西宮市 本文 覚えていますか? 西宮市も被災地になった 1995年1月17日の阪神・淡路大震災を… 広域な大津波や原子力発電所の事故を引き起こした 2011年3月11日の東日本大震災を…  あれから時が過ぎ、震災後に生まれた人も増えています。 また、これまで90~150年周期で起きてきた 南海トラフ地震は2023年時点で79年が経過しており 次の地震が近づきつつあると言われています。 過去の震災では以下の問題が顕著になりました ●家事全般、子どもや高齢者の世話が女性に集中する ●女性や子ども、マイノリティのニーズへの対応が後回し ●夫やパートナーからのDV、避難所での性暴力 などです 阪神・淡路大震災や東日本大震災での経験を伝え引き継ぐことは大事なことです。 平常時に起きることは、災害時にも起こります。 特に災害時は声をあげにくくなるため、平常時以上に注意や配慮が必要です。 災害時でも安全・安心にくらすために、新たな情報を得て知識を増やすこと、見落としが無いか確認しながら備えることなど 視野を広げ柔軟に対応することが大切です。 一緒に考え、取組んでみませんか? 阪神・淡路大震災以降に変わったこと 浅野 幸子 減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表/早稲田大学地域社会と危機管理研究所 招聘研究員 阪神・淡路大震災に際して学生ボランティアから国際協力NGOのスタッフとなり、在宅避難者・仮設住宅の復興支援などに4年間従事。2011年に発足した東日本大震災女性支援ネットワークの活動に参加。2014年より、後継団体の減災と男女共同参画 研修推進センター 共同代表。主な分野は地域防災、災害とジェンダー・多様性。法政大学大学院博士課程修了(政策科学博士)。 阪神・淡路大震災で顕在化した女性の被害・困難とその社会背景  1995年に発生した阪神・淡路大震災は、都市機能が高度化した現代の大都市を初めて襲った大規模災害であり、家屋倒壊等による直接死約5,500人に加えて、避難生活で命を落とした災害関連死は900人以上にのぼりました。トータルで見ると、女性は男性よりも1.36倍・約1,000人多く亡くなっています。その後の避難生活でも、冒頭(p2)で述べられているとおり、女性たちは衛生・安全・家族ケアなどのさまざまな困難に直面しました。一方、仮設住宅での孤独死は男性が約7割を占めています。  被害・困難の男女差の背景には、高齢化や経済力・就労形態(女性のほうが長寿、老朽住宅、非正規雇用が多い)、性別役割分業(女性は家族ケアの責任を、男性は経済的責任や意思決定をといった振り分け)の問題があると言えます。  当時、こうした課題は社会的な共有や防災政策への反映にまで至りませんでしたが、被災地の女性たちの取組みは発信され、東日本大震災後の動きにもつながっていきます。 国の防災政策への男女共同参画の視点の反映  一方で海外に目を向けると、途上国を中心に紛争・飢饉・自然災害などによる深刻な状況が頻発してきたことから、1990年代には被災者支援に女性や社会的に立場の弱い人々の視点を入れる必要があるとの認識が広がり、現場支援のノウハウにそれらの視点が導入されるようになりました。2005年の第2回国連防災世界会議で採択された兵庫行動枠組では、防災・復興のあらゆる段階にジェンダーの視点を入れる必要があると明記されました。わが国でも、国際動向と、阪神・淡路大震災および新潟県中越地震での経験も踏まえる形で、同年の防災政策に女性の視点、男女共同参画の視点が導入されるに至りました。  具体的には、国の防災基本計画に男女双方の視点による対策や意思決定の場への女性の参画の必要性が明記されるとともに、第二次男女共同参画基本計画に防災・復興の項目が初めて入ったことが挙げられます。  とはいえ、各自治体の関連した対策は十分とは言えず、2011年の東日本大震災でも再び女性たちが厳しい避難生活に直面してしまいました。ただし、前述のような動向により課題認識が徐々に広がっていたことから、被災地内外で女性支援が様々な形で行われたことは特筆に値します。 実践や政策面での取組みの本格化  東日本大震災以降は、被災地の現実に学ぼうと、各地の女性団体ならびに男女共同参画センター等が講演や学習会を実施したり、女性防災人材の育成に取り組む動きが広がりました。内閣府男女共同参画局も、2013年に「男女共同参画の視点からの防災・復興の取り組み指針」を策定し、具体的な対策の方向性を提示しました。この指針は、近年の災害も踏まえる形で2020年に改定され、現在は「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」となっています。  2016年に公表された国の避難所運営ガイドラインでは、避難所の環境配慮はもとより、意思決定の場への女性の参画が強調され、2020年には国の防災基本計画の中で、自治体の防災担当部署と男女共同参画部署・男女共同参画センターの間の連携の必要性が明記されたこともあり、現在では、地域防災リーダーに女性を増やす、自治体の防災担当職員に女性を積極的に配置するなど、実効性を高めるための体制づくりの必要性にまで認識が広がりつつあります。  とはいえ「女性と防災」というと、物資や避難所の環境など狭く捉えられる傾向は続いています。また、災害後の女性の就労支援や復興まちづくりへの女性の参画の重要性も認識は不十分です。  災害課題は、平常時の課題と切り離すことはできないため、あらゆる面での男女共同参画の推進が、防災・復興に直結するという前提に立つ必要があると考えます。 こんな時、どうする!?  具体的に考えてみよう・その1 もし、あなたがこの4コマ漫画の登場人物だったら… 避難所には、さまざまな物資が届きます。 届いた物資は、できるだけ迅速かつ平等に避難者(被災者)へ届ける必要があります。 右の4コマ漫画は、東日本大震災時にある避難所で実際にあったエピソードです。 この漫画が伝えたいことは何か、考えてみましょう。 Q1. 1コマ目の人物は、どんな人でしょうか? Q2.配布された人たちは、どう思っているでしょうか? Q3.あなただったら、どう配りますか? Q4.「知らなかっただけなんです」というタイトルに込められた意味は? 4コマ漫画タイトル 知らなかっただけなんです 1コマ目 女性の方ーっ お集まり下さーいっ(生理用ナプキンの箱を持った人物登場) 2コマ目 はい、どうぞぉ(シュパパ 集まった女性に生理用ナプキンが配られる) 3コマ目 …1個? (配らてた生理用ナプキンのアップ) 4コマ目 女の人が配るとか? いっそトイレに置いておくとかね 出典:『パンジー~あの日うまれたもの』(発行:(公財)せんだい男女共同参画財団/イラスト:ico.) 過去から学び、今後に活かそう! 考えるヒント Q1を考えるヒント  1コマ目の人物がどんな人かは、ある程度描かれた内容から推測できます。  ・担っている役割は… ・性別は… ・年齢は… ・性格は… ・この時に考えていることは… Q2を考えるヒント 3コマ目に「…1個?」とあるのは配布された人の心の声のようです。これは、必要な数と配布された数にズレがあったと推測されます。  生理の周期や期間には個人差があり、必要な生理用ナプキンの数も人によって異なります。また、生理を話題にすることに恥ずかしさや抵抗を感じる人もいます。特に男性やよく知らない相手に対して、なおさら言いづらいです。  声をあげられずに我慢を強いられるのは、災害時だから仕方のないことでしょうか。 Q3を考えるヒント 例えば… ・1コマ目の人物のように、公平性を重視しますか? ・誰かに意見を聞きますか? ・何について相談しますか?  多様な立場の人から意見を聞くことで、自分では気づかなったことに気づけます。4コマ目も参考にしながら、考えてみてください。 Q4を考えるヒント  誰でも間違えることはあります。「知らなかっただけ」で済まさずに改善することが重要です。意見を言いやすい関係づくり、1人で抱え込まず周囲に協力を求めやすい雰囲気づくりが必要です。  防災や避難所運営に関する意思決定プロセスに女性など多様な立場の人が積極的に参画できる体制づくりと実績が、求められています。 平常時の防災活動に活かそう!  生理用ナプキンの他に、配布する人と必要とする人との間でズレが生じやすいモノがあるか、考えたり話し合ってみてください。 参考資料:「しが防災プラスワン~女性の視点と多様性~」(滋賀県知事公室防災危機管理局防災対策室HP)      「女性が力を発揮するこれからの地域防災~ノウハウ・活動事例集~」(内閣府HP) こんな時、どうする!?  具体的に考えてみよう・その2 安全・安心の視点から考える災害時のトイレ問題 平常時では「当たり前」だったことも、災害時だと「できなくても仕方ない」ことになりがちです。 たとえ災害時であっても、トイレ問題は健康や個人の尊厳に関わることです。 一緒に考えてみませんか? あなたが重要だと思うトイレの条件は? □清潔である □悪臭がしない □水が流れる □カギがかかる □他人から見えない □照明が明るい □腰かけ式である □手すりがついている □出入口に段差がない □トイレットペーパーがある □サニタリーボックスがある □生理用ナプキンがある □男女別になっている □トイレの数が使う人数に見合っている □緊急呼出しボタンや防犯ブザーがついている □ベビーチェアやベビーベッドがある □その他(          ) 使えるトイレが安全・安心でなかったら…  平常時は、当たり前に安全・安心なトイレが使えます。一方、災害時は安全・安心な条件を保つことが難しく、汚い・臭い・数が少ない・暗い・遠いなどの使いづらいトイレになりがちです。  そのため、トイレを使わないように食事や水分補給を控えると、体力や免疫力の低下、脱水症状、エコノミークラス症候群、膀胱炎などの尿路感染症、肺血栓などの循環不全の発生リスクが上がります。 安全・安心な仮設トイレとは? 多様なニーズや想定される問題への対策 災害時の状況を想定  災害時のトイレとして、何をイメージしますか。災害の規模や状態、避難場所によって想定するトイレも異なるため、それぞれの避難場所に応じた備えを考える必要があります。今回は、避難所での仮設トイレを想定して、具体的に考えてみましょう。 数が限られていても… 仮設トイレの数が限られている場合、どうするのが良いでしょう。  平等性や効率性を重視してすべてを男女共用にする、という考え方もあります。一方で、男女共用では使いづらいと感じる人もいます。どうすれば災害時のトイレを少しでも使いやすくすることができるでしょうか。  スフィア基準では、仮設トイレは性別に分け、その数の比率は男性用1に対して女性用3が望ましいとされています。災害時であっても安全・安心や利用時間の違いへの配慮が必要だからです。近年では、障がい者や性的マイノリティに配慮した仮設トイレの設置も推奨されています。 設置場所や向きは…  プライバシー保護を重視して、仮設トイレを「人目につきにくい場所や向きに設置する」という考え方もあります。一方、人目につかないことで、性暴力(盗撮やレイプなど)や犯罪(ひったくりなど)が発生するリスクが高まります。防犯の観点から場所や向き、明るさや動線なども含めて考えてみてください。 清潔さを保つには…  多くの人が利用するトイレでは、感染症などの二次被害を防ぐ必要もあります。きれいに使う、汚れたら自分で掃除するなどは、普段からできる取組みの1つです。みんなで協力して、トイレを清潔に保ちたいですね。 具体的にイメージしてみる…  例えば、幼児だったら、介助が必要な人だったら、どんな使いづらさがあるでしょう。災害時であっても、安全・安心に使える仮設トイレにする方法について、身近な人と話し合ってみてください。 スフィア基準:正式名称を『人道憲章と人道支援における最低基準』といい、災害、紛争の影響を受けた人の権利、その人たちを支援する活動の最低基準について定めた国際基準です。 参考資料:「スフィアハンドブック2018年日本語版」 地域防災に取組む西宮の女性に聞きました 「もし今、災害がおきたら…」と考えると、誰もが不安になると思います。 日頃から地域で防災の活動をされている女性にお話を伺いました。 ①自主防災会の会長として活動しています 中野しづ子(高木西部自治会自主防災会会長2020年~・防災士) 小牧眞理子(末広町自治会自主防災会会長2018年~) Q:まず、それぞれの地域の特徴について教えてください。 中野:阪急西宮北口駅の北側にある高木西部地区は300世帯超あり、自治会加入率は80%程度です。戸建て住宅の多い地域ですが、近年はマンションも建ったりしています。 小牧:末広町は、阪急西宮北口駅と夙川駅の中間かつ阪急神戸線とJRに挟まれた地域で、約470世帯あり、自治会加入率は100%です。個人経営のお店、子育て世代が住むマンションもある地域です。 Q:どんな災害を想定して防災活動をされていますか。 中野:大規模地震です。地域全戸に参加を呼びかける防災訓練を年間3回実施してきましたが、新型コロナ感染拡大で中断しています。自治会は21の班で構成され、班長は1年交代の持ち回りです。班長就任の最初に、地域の危険な場所やAEDの設置場所を確認する「まち歩き」をして防災への関心を高めます。毎月の班長会議の内容を文書で回覧しますが、防災情報のコラムを載せて、自分事として考えてもらう努力をしています。 小牧:現在の気がかりは、地震後の津波です。安井地区(近隣11町合同)の避難訓練を毎年していましたが、新型コロナ感染拡大で3年以上できていません。感染対策を工夫して何とか避難訓練を再開したいです。 Q:地域防災活動を始めたきっかけ、また会長になった経緯は? 小牧:地域活動のスタートは、2006年に自治会環境衛生委員になったことでした。生まれも育ちも西宮で、自営業の親の仕事を継いだこともあり、声をかけられました。阪神・淡路大震災時、夫は出張中で、自分が3人の子どもを守らなければと必死でした。だからこそ、普段から地域で防災に取組むことが大切だと思います。自主防災会会長を兼務していた前自治会会長が2018年に突然亡くなられ、当時副会長だった私がスライド的に自治会会長兼自主防災会会長になりました。 中野:阪神・淡路大震災時、フルタイムで働いており被災後数日で出勤せざるを得ず、困っている人を支援できなくて心苦しく思っていました。地域活動の始まりは自治会役員になった1997年からで、2009年の自主防災会発足時に避難誘導班班長となりました。2012年から自主防災会の副会長を務め、前会長が退く際に会長を打診され、他の役員からの後押しもあり、断り切れずになりました。 Q:リーダーとして、どんなことを大切にしていますか? 中野:うちの自治会はずっと男性が会長だったので、女性の自分がなるとは思っていませんでした。前会長に「女性でもいいのか?」と尋ねたところ、「女性ならではの視点で取組めば良い」と言われました。その視点もありますが、前会長に協力してきた経験に加え、防災士などの資格取得をとおして学んだ活動に必要な知識と情報が、今の自分の支えになっていると思います。 小牧:私は、どうせやるなら前例踏襲ではなく、みんなの意見を聞いて取入れたいと思っています。PTA会長の経験も活かして、積極的に地域の人と関わるようにしています。若いお母さんたちは、いろんなスキルやアイデアを持っているので、それを発揮できる場所や機会を地域の中にもっと作っていきたいです。 中野:意見を聞くというのは、私も大切にしています。「会長が決める」というよりは「会長は調整役に徹する」というスタイルですね。意見は人それぞれですが、安心して意見が言える場づくりをして、聞いたうえで丁寧に説明すれば、合意を得やすいと感じます。 小牧:自主防災会の課題は、メンバーの固定化です。防災訓練の企画にいろんな意見を取入れることで、自分事だという意識が強まり、防災活動に関わる人が増えていくと思っています。 中野:地域には、新しく転居されてきた人や自治会に入っていない人もいます。誰かが何とかしてくれると思う人もいるかもしれませんが、阪神・淡路大震災の時と今とではいろんなことが違っています。それを理解し、自分の事として備え、近所の人とどう協力し合えるか、一緒に考えたいです。 ②親子参加の防災イベントを実施しました 松村真弓(転勤族ママ&キッズ探検隊in西宮&転ママplus代表) 「子連れ防災大作戦!」 (コープこうべ第2地区本部共催・西宮市後援) 第1回~まもる・にげる・つながる~ ・オンライン講座「子どもと私だけ!今大きな地震が来たら?」未就学児とその親が一緒に避難する時の考え方など ・避難訓練:実際に子連れで瓦木公民館へ避難 ・ワークショップ:各自が準備している防災グッズを1つ持参し紹介し合う 第2回~防災クッキング めざせ防災備蓄率100%~ ・オンライン講座「“災害時の食”って?」普段のローリングストック、災害時の子どもの食と栄養 ・ワークショップ:サバ缶や水煮豆など基本アイテムに各家庭の食材を足して親子で災害時のご飯を作り、発表し合う 企画のきっかけ  以前から「土地勘のない西宮で被災したら不安」という話は、メンバー間でよくしていました。防災について考え学ぶ機会のあった副代表が提案し、活動をとおして知り合った防災士の方から助言を得られたことで、今あるものを活かす防災の企画ができ2022年に実施しました。コロナ禍のためオンライン参加もできるようにしました。 参加者の反応  「実践型のイベントで学びになった」「親子で楽しんで防災を考えるきっかけになった」と好評でした。 今後に向けて  西宮や阪神間で起こる「もしも」を想定し、子育て世代(0~2歳児の親子)も参加しやすく無理なくできる防災のイベント開催を続けたい、と考えています。 災害に強い地域づくりは夢物語ですか? 中尾 篤也(西宮市 総務局危機管理室 地域防災支援課)  本市には現在、自主防災組織が227あり、地域主体の防災啓発や防災訓練などが行われています。しかし、自治会と同様に多くの自主防災組織でも、役員の高齢化や担い手不足などの課題が顕著となっています。  これまで当課では、地域の防災力を支える立場で多くの自主防災組織や自治会の方々とお会いし、「どうすれば災害に強い地域づくりが進むだろうか?」と一緒に考えてきましたが、活動の現状維持で精一杯な地域が多い印象です。また「今以上のことをするなんて夢物語では?」と思っている方も少なくないと感じます。  一方、比較的活発に活動されている地域もあり、そういった地域の共通点として、役員構成が性別や年齢層に偏りがなく、しかも、それぞれの方が主体的に取組んでいる印象を受けます。とかく災害時は誰もが積極的に防災活動に参加することが重要で、日頃の活動から、多様な立場の方々が参画できる「地域組織」が必要だと考えます。  とはいえ、「そんな地域組織が本当に作れるのか?」と思われるかもしれません。そこは視点を変えて、「災害時は、地域の誰もが同じ『利害関係者』であること」と「それぞれの立場の方々が、それぞれの強みを生かし、力を結集することが地域の防災力向上につながること」と捉えて取組みを進めれば、おのずと人は集まり、参加者の活動意欲にもつながっていくと思います。大切なのは、地域防災の主体者は一部の役員のみでなく、性別や年齢等に関係なく地域の誰もが主体者であること。そして、災害時に各々の力を最大限発揮するためにも、日頃からの顔の見える関係づくりを進めていただきたいと思います。  このように、男女共同参画など多様な視点を大切に地域の防災活動を進めることで、より災害に強い地域になることも夢物語ではなく、実現可能な目標にできるのではないでしょうか。  市としては、このような多様性を念頭に置きながら、防災活動および地域活動の支援に引き続き取組んでいきたいと考えています。 ●西宮市ホームページでご覧いただけます● 西宮市防災マップ(令和5年度改定版) 市内各地域の防災活動紹介 防災の“我が事”化で、自分も社会も変えよう 相川 康子  特定非営利活動法人NPO政策研究所 専務理事 男女雇用機会均等法施行後の1期生として「神戸新聞社」に入社し、約20年間の勤務の中で阪神・淡路大震災の災害報道や防災、人権などに関する社説等を担当。3年間の神戸大学教員を経て現職。新聞社を退社後、男女共同参画と防災・復興に関する研修を各地で実施。現在、滋賀県や大阪市、枚方市等で防災会議委員を務める。  1995年のあの日、被災地で暮らしていた私たちは、自らの備えの甘さを痛感し、女性や高齢者、障がい者、外国人らに対する配慮や「政策決定の場への参画拡大」の理念が、「非常時だから仕方ない」という言い訳によって蔑ろにされていく悔しさを体験しました。男女共同参画や多文化共生の理念は、絵に描いた餅的な目標や“お題目”のレベルでは、災害時など肝心なときに棚上げされてしまいます。普段から、個人の意識や社会システムの中にしっかりと根付かせておかなければなりません。 女性の参画:積極的な理由を見出そう なぜ、女性たちが防災・減災・復興という一連の災害対応にかかわるべきなのでしょう。消極的な理由だけでなく、積極的な理由も考えてみましょう。  消極的な理由としては、マンパワーの補完です。災害対応(だけではありませんが)では自助-互助・共助-公助の組み合わせが重要ですが、この28年間で大きくバランスが変わってきました。高齢化や単身世帯の増加、格差の拡大などで自助が難しい人が増え、自治体職員数の減少や行財政の悪化によって公助も限界に近づきつつあります。頼みの綱の互助(ご近所同士の助け合い)も、放置しておくと劣化が進みます。自治会など地縁組織の組織率は低下し、消防団員や民生委員児童委員らも全国的に定数割れとなっています。また、ボランティアらによる共助も、大規模災害ではどこまで期待できるか分かりません。  従来は、健康な男性が主要な担い手だった地域防災の体制が、より多くの人で担わないと維持できない・・・これが人口の半分いる女性に期待する理由の一つです。  一方、積極的な理由としては、女性をはじめ多くの当事者に参画してもらうことで、現行の不備を改め、防災を契機として広く自己実現やまちづくりにつなげようという考え方です。  当事者のニーズは当事者が一番よく知っています。これまで「私には無理」や「誰かがやってくれる」と思い込んでいた女性達が、災害対応を「我が事」と捉え、地域防災の充実に向けて多様なアプローチで動き出せば、社会は大きく変わります。知識やノウハウの習得で「守られる側」から「守る側」にもなれる―という気づきは、自信や自己肯定感につながります。現行体制の不備に気づけば、自ずと地域社会さらには自治体や国の制度・政策を見る視点や態度も変わってくることでしょう。 助け合いや日常の取組みで対応を強化  女性やマイノリティらが加わり多角的に点検することで、現在や近未来に対応した工夫も芽生えやすくなります。個々人がスキルを高めるだけでなく、助け合いでカバーできる課題も多いからです。  例えば、公務員や医療職など災害時であっても出勤・出動しなければならない職業や役割の人達にも家族がいます。地域で小さな子どもや老親を預かってくれる仕組みが構築できれば、どんなに心強いでしょう。風水害の場合など、避難所となる場所で早めに臨時の託児所や託老所を開設し、危険なエリアに住む人達に、保育や話し相手のボランティアとして来てもらえれば、早期避難もできて一石二鳥ではありませんか。すでに地域内で行われている「認知症カフェ」や「やさしい日本語」の普及活動も、災害時要配慮者への対応に役立ち、平常時からの福祉のまちづくりにつながる有効な取組みです。  昔からの知恵や普段の暮らしの中に、災害対応にも応用できる要素はまだ沢山埋もれています。それをみんなで見つけていきましょう。  所蔵資料の紹介 『災害女性学をつくる』 浅野富美枝・天童睦子編著 生活思想社 2021年 『災害とトイレ』 日本トイレ協会編 柏書房 2022年 『女たちの避難所』 垣谷美雨著 新潮文庫 2017年 『イラスト・図解でまるっとわかる!家族でそなえる防災・被災ハンドブック』 天野勢津子著 イースト・プレス 2023年 事業の紹介 女性のための相談室            □電話相談:0798-64-9499 一人30分程度 月・木曜日 10:00~16:00 □面接相談:要予約/一人50分 月・火・水・木・土曜日 10:00~16:30 □法律相談:要予約/一人30分 第3金曜日 14:00~17:00 女性のためのチャレンジ相談            再就職・起業・資格取得や地域貢献の実現に向けたアドバイスなど、キャリアコンサルタントによる相談:要予約/一人50分 第2水曜日 9:30~12:30 ■予約電話:0798-64-9498 月~土曜日 9:00~17:15 (休日・12月29日~1月3日は除く) 性的マイノリティ相談            電話相談:0798-68-6720 第2土曜日 10:00~13:00 一人30分程度 図書・資料コーナー 男女共同参画に関する図書・雑誌・絵本・コミック・DVDの貸出/情報相談 講座・イベント 誰もが性別にとらわれることなく、互いに尊重し合い、一人ひとりの力を活かすことができる社会の実現をめざして、様々な講座やイベントを行っています。 ジェンダー×地域防災 災害時でも安全・安心にくらすために 発 行:西宮市男女共同参画センターウェーブ         〒663-8204 西宮市高松町4-8プレラにしのみや4F TEL:0798-64-9495 FAX:0798-64-9496 発行日:令和5(2023)年3月       イラスト:宮武小鈴 ウェーブのホームページ