音楽の力で豊かな未来を次世代に
兵庫県立芸術文化センター芸術監督 佐渡裕

写真:佐渡裕さん (兵庫県立芸術文化センター芸術監督)
2005年10月、阪神・淡路大震災からの復興のシンボルとしてオープンした、兵庫県立芸術文化センターの芸術監督として、今から10年前「西宮市政ニュース」新年号に私は寄稿させていただきました。その時、「芸術や文化を通して街づくりに貢献し震災前よりもっと強くやさしい街をつくりたい。芸術文化センターをみんなの広場に」と決意を記しています。

センターはおかげさまで昨年大盛況のうちに10周年を迎えることが出来ました。会員数は約6万人、その約2割が地元西宮市にお住まいの方々です。劇場と同時にオーケストラを誕生させるというセンターの構想は他に例のないもので、「地元住民の方と距離が近いこと」、「周囲に住んでいる方々に『自分たちの街の大事な宝』と思っていただけること」が成功のためには肝心であり、理想であると私は常々、語ってきました。地元西宮の皆様の熱心な協力、そしてセンターの地元の商店街や学校、住民の皆様から特別な見守りと愛情を受けて、この夢が10年でひとつの形になったと心より感謝しています。

昨年秋、私はオーストリア、ウィーンを拠点に108年の歴史を持つ、〈トーンキュンストラー管弦楽団〉の音楽監督に就任しました。音楽の都と呼ばれる地で、伝統ある楽団を任された喜びと、彼らを率いる大きな責任を感じつつ、10年間このセンターをスタッフや地域の方々と共に盛り上げてきた経験や手ごたえが大きな力になっています。震災で西宮は大きなダメージを受けました。建物や道等の生活インフラから復興は始まり、今では街はすっかり平穏な姿を取り戻したように見えます。けれど、家族や友人を失った心の痛みはいつまでも消えず、多くの失われた命は帰ってきません。私はこの街の文化芸術のリーダーとして、次の世代になんとか豊かな未来を残したい。そのために音楽に何が出来るのかを10年間ずっと考えてきました。一緒に音楽を聴き、感動することによって、人は今を共に生きている喜びを分かち合えます。その事をこの劇場で私は学び、ウィーンでの新しい仕事においても大きな指針になっています。

街づくりも劇場づくりも、愛情と想像力をもって、未来を考えていくことが大切です。脈々と音楽文化が息づいているウィーンという街でそのことを実感しています。まだまだ発展途上の兵庫県立芸術文化センターでやるべきことは山積みです。次の10年で皆様に音楽の面白さをより実感いただけるように工夫と鍛錬を重ねてまいりたいと思います。

皆様にとって新しい年が幸せに満ちたものになりますようにお祈りしています。

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