生涯学習

西宮湯川記念事業

第4回 西宮湯川記念賞 小貫 明

更新日:
2017年1月25日
ID:
26598

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○近況
京都大学物理教室の小貫です。 1989年に西宮記念賞をいただき大変励みになりました。 その後も、高分子・液晶・ゲル・電解質などの 柔らかい体系の研究を中心に進めてきました。

このような研究分野はソフトマター(soft matter) と呼ばれております。そこでは、様々な相転移現象が起こります。 また時間的に変化する非平衡状態の研究が盛んです。 相転移とは、温度や塩の濃度などを我々が 制御し変化させると、物質の状態が (多くの場合不連続に)変化する現象です。

身近には、液体・気体の相分離現象があり、潜熱による 冷却効果は我々が日ごろ経験するところです。 高分子溶液(ひも状の巨大分子を水に混ぜたもの)や生体系のDNA(生命情報を担う巨大分子)では、 温度・塩濃度・アルコール濃度などの 僅かの変化に対し、ひもが 伸びたり丸まったり沈殿したりすることが観測されます。ここで伸びてる時はひもは帯電しており、 沈殿した周囲ではアルコールが排除されております。
ひも以外にも、液晶と呼ばれる 棒状分子の体系では、 棒の方向が揃ったりバラバラになったりする ことで特殊な大域的構造が出来ます。液晶テレビでは電場によって駆動される この相転移現象がまさに使われています。
また頭が水を好み尻尾が水を嫌うニ重人格的分子 を界面活性剤と呼びます。石鹸分子 がその例であります。この様な分子は 油を取りこみ水の中に油玉を作りますので、顔や着衣からの油除去(洗顔・洗濯)に使われています。

この様に、ソフトマターは、 物理においては豊かな相転移研究・非平衡物理研究の題材を 与え、化学物理・生体物理に及ぶ拡がりをもち、 多くの研究者によって多様な発展をしています。若い方には、熱意と野心さえあれば、創造的研究生活が 待っています。


最近では、私達は、 水などの高い電気的極性をもつ溶媒中の混入物(特にイオン) の水和効果の相転移に及ぼす 現象の研究をしています。
塩は 水の中でバラバラになりイオン として存在します。ここで重要なのは、 イオンの周りに5-6個の水分子が しっかりとくっついていることです。このイオンと吸着水分子から構成される 複合物を水和核と言います。 水和は化学の主要な研究対象ですが、 化学分野では相転移と関連づけては 研究されていません。

我々は水和に起因する 協同的現象に未開の領域を見出しております。 例えば、水の中にアルコールなどの 他の液体を混入すると、不可解・奇妙な事態となります。即ち、水-アルコール の中に、少量のイオンを添加 すると、イオンが 水を好みアルコールを嫌うため、 水玉が形成されその中にイオンが潜りこむことが起こります。イオンの好き嫌いの選択性が余りにも度外れているの が原因です。この様な塩による不均一な水玉の発生は、 歴史的には古くから観察されておりますし、生体系でも蛋白質やDNA周りで 実は頻発しているはずなのです。

また多くのイオンは裸であると水が大好きだが、 水をはじく鎧(ベンゼンリング)を着ると 水が大嫌いになるのです。すると 水が好きな(親水性)正イオンと嫌いな(疎水性)負イオンから なる塩を水-油系に添加したらどうなるでしょう? 貞包浩一朗さん・瀬戸秀紀さん (高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所)らの実験では、 水と油が細かく相分離し水と油が 交互に並んだ数十から数百オングストロム 程度の厚さの層状構造ができました。 水層に水の好きなイオンが、油層に水の嫌いなイオンが安住の場所を見つけるのです。

また別話題ですが、 水の嫌いな疎水表面あるいは(十オングストロム 以上の)大きな疎水性粒子の周りでは、水分子に含まれる 水素原子間の構造に大変化が起き水欠損層が出来る事実が注目されてきております。 このため疎水性物質の周囲に 気泡が出来たりします。

この様に水の絡む神秘的な現象は 多々ありそうです。

(2011年12月)

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