生涯学習

西宮湯川記念事業

第7回 西宮湯川記念賞 金子 邦彦

更新日:
2017年1月25日
ID:
26597

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○受賞研究について
偶然にみえるものは本当に単にデタラメに起きているのでしょうか。
1900年頃にポアンカレは、目に見えない小さな差が増幅して大きな違いを結果的に生む時、これを偶然と呼ぶのだろう、と見抜きました。このことは夏目漱石の絶筆となった小説「明暗」にも登場しています。それから60年後、ローレンツは流体の運動を簡単化した微分方程式(状態の時間変化を与える規則)にこのような仕組みが存在することを発見しました。後にカオスとよばれるこの現象は70年代以降多くの科学者の研究の対象となり、数個の変数、例えば温度とか物質の濃度が時間的に不思議な変化する様子--周期的な繰り返しではなく、といって全くデタラメでもない変化の仕組み--が理解されました。

しかし自然界では空間的なパタンが時間とともに変化し続ける現象が多々あります。大気や水などの流体の運動、いろいろな物質に電磁場を与えた時の応答、化学反応による物質の濃度のパタンの変化などなどです。このような場合、空間的な波が時間的に不規則な変化をしたり伝搬したりする多彩な現象が見られます。このような現象はカオスをもとにして理解できるのでしょうか。

そこでカオス的に変化する要素を格子上に並べてどのような振る舞いが得られるかを調べてみました。実はこれは数行で書けるプログラムですので高校生の皆さんでも簡単に調べてみることができます。

このように簡単なモデルにも関わらず、調べていくと、カオス的に変動するドメイン形成、その伝搬、カオスを消すようなパタン形成、乱れた運動と規則的運動の間を遷移し続ける時空間欠性など多彩な現象が見出され、のみならずこれらは自然界にも存在する普遍的な振る舞いであることが明らかになりました。これが受賞対象となった、1983年に導入され結合写像格子(Coupled-map-lattice)で、その後、時空カオスという時間空間両面でのカオス的振る舞いを理解するための大きな研究分野として広がっています。


○プロフィール
かつてはエッセイや小説を書いたこともあります(「カオスの紡ぐ夢の中で」、早川書房)が、研究室出身の小説家、円城塔氏が大活躍ですので僕はすっかり引退しています。


○近況
受賞対象だった時空カオス研究を発展させて大自由度カオスの研究を90年代に展開しました。
そこで導入した大域結合写像(globally doupled map)は複雑系研究の一つの規範モデルとなり、それによりIBM科学賞と仁科記念賞を受賞させていただきました。
一方、90年代半ばから、生命システムの持つ複製、適応、分化、進化の普遍的原理を探る研究を開始しました。

優れた実験家と共同研究していることもあり、生命の理論が少しずつ垣間見えてきているようにもおもえます(拙著、「生命とは何か―複雑系生命科学へ」(東大出版会)をご参照ください――いちおう高校生から名誉教授までが対象の本です)。

とはいえ生命とは何か?への答えはまだまだですので、若い皆さんの活躍を期待しています。

(2011年9月)

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