生涯学習

西宮湯川記念事業

第9回 西宮湯川記念賞 阿久津 泰広・出口 哲生

更新日:
2017年1月25日
ID:
26594

印刷

○受賞研究について
◆結び目と結び目不変量

はじめに、結び目について説明します。
空間の中の閉じた曲線を結び目と言います。日常生活の中での結び目とは、靴ひもの結び目など、ひもの両端が閉じていないものを指すことが多いのですが、ひもを動かすと結び目がほどけてしまいます。一方、閉じたひもの結び目の場合には、どんなにひもを動かしてもほどけません。このため、結び目を調べる場合には閉じたひもの場合を考えると便利なのです。
二つの閉曲線が与えられたとき、一方の閉曲線を連続的に変形させて、その曲線を切断することなく他方の閉曲線に重ねられるとき、二つの閉曲線は同じトポロジーをもつ、と定義します。
9阿久津出口・図左の図には交差点がなく、輪ゴムと同じトポロジーをもつ閉曲線です。これを自明な結び目とよびます。一方、右図の結び目には交差点が3個あり、自明な結び目とはトポロジーが異なります。つまり、左の図を連続的に変化させて右の図に重ねることはできません。

結び目の図を見て二つの同じ結び目が同じかどうかを判別することは、一般には大変難しい作業です。
一方、結び目の図から出発して計算して、結び目の図が同じであれば同じ値が導かれるような量を、結び目不変量といいます。二つの結び目に対して結び目不変量を計算して、もしも異なる値が導かれる場合、その二つの結び目は異なることが証明されます。このように、結び目不変量は結び目を研究する上で役に立つ場合が多いのです。つまり、結び目不変量を用いて、結び目のトポロジーを区別できる場合があるのです。

どの二つの結び目も区別できるような完全な結び目不変量というものは未だに見つかって知られてなく、比較的強力な不変量も、そうでない不変量もあります。つまり、異なる二つの結び目に対して結び目不変量を計算して、同じ値が導かれることは多いのです。このため、新しい不変量を見つけることは重要なのです。 最近では特に応用上の重要性が増しています。 

◆受賞対象の研究内容

「可解統計力学模型に基づく結び目理論」では、可解統計力学模型から当時新しい結び目不変量が多数導かれました。
可解統計力学模型では、ヤン・バクスター方程式という可積分性を示す関係式が重要です。実はこの方程式の解から、結び目不変量を導く一般的なやり方が与えられました。そして、いくつかの模型に対して、様々な結び目不変量が導かれたのです。
さらに、新しい結び目不変量を導くだけでなく、これらの不変量を計算する新しい方法も導かれました。不変量を統計物理学の分配関数を用いて計算する方法でした。

 受賞対象の研究の中では、超リー代数gl(m|n) の対称性を持つ可解格子模型と結び目不変量の関係も議論されました。任意の二つの正整数m とnの場合にはHOMFLYPT 多項式が導かれました。これはジョーンズ多項式を含んで拡張された2変数の不変量でした。面白いことに、超リー代数gl(m|n) の対称性を持つ可解格子模型から導かれる結び目不変量は整数mとnの差だけに依存し、特にm=n の場合にはアレクサンダー多項式が導かれることが分かりました。

◆その後の発展

不変量を計算する分配関数を用いる方法は、バシリエフ不変量を多項式時間で計算するアルゴリズムを導くのに役立ちました。そして、バシリエフ不変量を応用することにより、環状高分子の統計物理的性質における結び目の効果が解明されました。結び目不変量を用いた環状高分子の統計物理学の研究は、現在でも継続しています。

○プロフィール
(出口氏)
趣味に関して述べます。子供の通っている小学校のソフトボールチームで、小さい子チーム(小4以下)のコーチをやっています。ボランティアです。
毎週日曜日の午前中に、子供たちと一緒にキャッチボールなどソフトボールの練習をして、最後に紅白試合して、楽しくやっています。

○近況
(出口氏)
結び目不変量を用いた環状高分子の統計物理学の研究はさらに発展し、現在では国際的に多くの研究者によって研究され、一つの研究分野が開拓されたと言っても良いでしょう。そして、この分野の国際会議を日本で3回組織して開催しました。以下の(1)-(3)の会議です。

(1)「結び目と高分子:ランダム結び目、物理的結び目、DNAの結び目」
(Knots and polymers: random knots, physical knots and DNA knots)
お茶の水女子大学、2005年 2月17--18日

(2)基研研究会(YITP-W-08-08)
「結び目とソフトマター物理:高分子のトポロジー、そして物理学、数学および生物学に関する話題」(Knots and soft-matter physics: Topology of polymers and related topics in physics, mathematics and biology, August 26-29, 2008, YITP, Kyoto University, Japan) 、
京都大学基礎物理学研究所、2008年 8月26日―29日
http://www.phys.ocha.ac.jp/deguchilab/knot2008/indexJ.html
研究会報告書(英文, proceedings): 物性研究 Vol. 92 (2009-4)
講演者数 36名(海外講演者19名)

(3)基研研究会(YITP-W-10-04)
「高分子の統計力学とトポロジーそしてDNAやタンパク質の構造と機能への展開」(Statistical physics and topology of polymers with ramifications to structure and function of DNA and proteins)
(第24回統計力学国際会議(STATPHYS 24)のサテライト会議
(IUPAPのC3委員会公認))
京都大学 基礎物理学研究所、2010年8月2日―6日
http://www.phys.ocha.ac.jp/deguchilab/knot2010/English/index.html
講演者数 36名(海外講演者24名)
研究会報告書(英文, proceedings):
Progress of Theoretical Physics Supplement No. 191 (2011)

(2012年1月)

ページのトップへ