生涯学習

西宮湯川記念事業

第19回 西宮湯川記念賞 古崎 昭

更新日:
2017年1月25日
ID:
26588

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○受賞研究について
金属の針金をどんどん細くして、断面の半径がナノメートル程度の非常に細い針金にしたとしましょう。そのような細い針金を量子細線とよびます。量子細線中の電子は細線に沿った方向にしか動けず、一次元空間を運動していると考えることができます。負の電荷をもつ二つの電子の間には電気的な反発力が働くので、量子細線中の電子たちは互いに押し合いへし合いしながら運動していますが、一つの電子の運動は隣りの電子に必ず影響するので単独行動が許されず、電子たちは常に集団で運動します。一次元空間をこのように集団運動している電子集団を、物性物理学では朝永ラッティンジャー流体とよびます。(この名前は、一次元電子系の基礎となる理論模型を最初に考えた朝永振一郎博士とJ. M. Luttinger博士にちなんだものです。)

 私が西宮湯川記念賞を受けた研究は、その中の一次元電子系が朝永ラッティンジャー流体となっている量子細線の電気伝導特性に関するものです。
量子細線に電流が流れている状況をミクロに見ると、朝永ラッティンジャー流体を形成する電子たちが間隔をほぼ一定に保ちながら一斉に運動しています。量子細線の幅に不均一なところや曲がっているところがあったり、量子細線中に不純物があったりすると、電子の流れはそこで乱れてしまいます。朝永ラッティンジャー流体では、電子は集団で運動しているので、一部の運動の乱れは一電子にとどまらず全体に及んでしまい、ちょっとした乱れによって電子集団全体の運動が影響を受けて、電流が流れにくくなります。
このような現象が一次元的な量子細線では(二次元や三次元の金属と比べて)顕著にあらわれることを、理論計算によって明らかにしたのが受賞研究の大ざっぱな内容です。


○プロフィール
埼玉県で生まれて、神奈川県の湘南地方で育ちました。小学生のときに科学者の伝記や科学啓蒙書をたくさん読み、湯川秀樹やアインシュタインのような物理学者にあこがれて研究者になりたいと思うようになりました。相対性理論やブラックホールについて解説する本を読んで、小中高時代は宇宙や素粒子により興味をもっていました。

大学に入った当初もそのような分野の研究を志して物理学科に進学しましたが、大学3年生の頃に高温超伝導体が発見されて超伝導体や磁性体を研究する物性物理学や統計力学への興味が膨らんできました。そして、大学院では物性理論の研究室に進み、今日まで物性物理学の分野で理論的研究を続けています。

大学院博士課程の3年生に進んだ頃、思いがけず東京大学工学部の永長直人さん(第10回西宮湯川記念賞受賞者)の研究室の助手に雇っていただき、永長さんに教わりながら新たに取り組んだ研究が朝永ラッティンジャー流体の光応答と電気伝導の研究でした。この研究が認められて、昔あこがれた湯川博士にちなむ賞をいただけたのはとても光栄なことです。

研究を一段落させて学位を取った後、マサチューセッツ工科大学(MIT) へ留学する機会を得て、1993年秋~1995年秋まで武者修行してきました。そこで多くのとても優秀な物理学者と知りあうことができたことは、その後の私の研究の大きな助けとなっています。自分よりずっと賢い人たちが大勢いるところにしばらく居るのもいい経験です。日本に帰国して半年後、今度は京都大学基礎物理学研究所で研究する機会を得て7年間勤めた後、関東に戻ってきました。

今、MITや京大での研究と生活をときどき懐かしく思い出します。私の京大基研在職時には、ノーベル賞を受賞された益川敏英さんが所長をされていました。


○近況
理化学研究所(埼玉県和光市)で物性物理学の理論研究を続けています。次元のより高い話ができるようになりたいと思っていますが、相変わらず一次元や二次元の空間を運動する電子について考えていることが多いです。
この数年は、電子の波動関数がトポロジカルに非自明な構造をもった、トポロジカル絶縁体とよばれる物質の研究を中心に行っています。トポロジカル絶縁体は、内部は電気を通さない絶縁体なのに表面は金属的で電気をよく通すような、新しい種類の物質です。実は、トポロジカル絶縁体の研究の先陣を切ったのはアメリカの研究者です。いつかは益川さんのようにとほうもないアイディアを最初に提案したいものだと思っています。

運動不足解消のため、硬式テニスを週に一回しています(中高時代は軟式テニス部でした)。ジョギングも始めました。そろそろマラソンにも挑戦しようと思っています。

(2012年1月)

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